【第4日:12月20日】

 GE2の朝は早く6時45分には軍隊式に起床のアナウンスが流れます。眠りが深かったせいか寝起きはそんなに悪くはありません。妻が支度をしている間にデッキに出てみることにしました。デッキから見るガラパゴス諸島の朝日は美しく、しばし見とれてから写真を数枚撮ります。朝食は7時15分からでした。朝食は昨日のディナーと同じレストランでバイキング方式です。主食はパンかシリアルかホットケーキといった感じで、ご飯やみそ汁はありません。バイキングとは言っても、それぞれのテーブルにはボーイが付いていて飲み物などは言えば持ってきてくれます。彼らの英語はスペイン語なまりがあってちょっと聞き取りづらいです。

 ともかく食事を終え、フロントに行きシュノーケリングセットを貸してもらうことにしました。シュノーケリングは学生の頃に一度やったことがあったと思いますが、「できる!」というほどのものではないし、彼女にいたっては泳ぎもろくにできないというありさまですがとりあえず借りておくことにしました。この船では一度借りたら最後の日まで自分で持っていて必要なときに島に持っていくといった運用方法のようです。

 部屋に戻り一休みしていると、ランディングするのでメインラウンジ集まれというアナウンスがありました。まだ8時です。後から行くわという訳にもいかないので昨夜のブリーフィングで説明のあったとおり準備を整えメインラウンジに集合しました。いくつかのチームは先に出発していましたが、我々のドルフィンチームはまだのようでした。ライフジャケットを着用し、ボートに乗り込みます。目指すはバルトロメ島です。今回はドライランディングですが、今日の午前中の予定はちょっと複雑で、最初のポイントから戻ったらGE2に戻らずにバルトロメ島の別ポイントにボートで移動してウェットランディングするというのです。そのため我々は部屋に備え付けてあったポパイが担いでいるようなバックにシュノーケリングのセット・ビーチサンダル・タオル・飲料水・サンタンローション等を入れて持ってきています。

 まず最初のポイントにドライランディングしました。どうやら目の前にそびえている山に登るようです。さっさと行けばよいのにサムエルがまた偉そうに長々と説明をしています。英語では何を言っているのかよく分からないので、鳥や風景の写真を撮っているとようやく説明が終わったようです。それにしてもこの島は緑がほとんどなく、噴火した溶岩に覆われたままといった感じで何とも圧巻です。それでもところどころに溶岩サボテンがたくましく生えていたりします。我々が歩いて良い範囲の両端には木の杭が打ち込まれており、それ以上先にいくとサムエルに怒られてしまいます。山の頂上までの斜面には木の階段が設置されており、多少自然が破壊されています。

 頂上までいく間に見た動物は、鳥の他は溶岩トカゲとバッタだけでした。溶岩トカゲは近寄ってよく観察していると、のどの部分が赤いものとそうではないものがいることがわかりました。そのことをサムエルに聞いてみると、のどが赤いのは雌だと言っていました。もしかしたら逆だったかもしれません。ともかく喉元の色で雌雄が判別できるようです。溶岩トカゲのために多くのフィルムを使っているうちに頂上につきました。さすがにこれは朝一番でなければ暑くてやってられないだろうなと思いながらも頂上から見るすばらしい景色には感動しました。ちょっとオーバーかもしれませんが、地球上にまだこんな美しいところがあったとは驚きです。

 このクルーズには小さな子供から還暦を過ぎた老夫婦まで老若男女が参加しています。我々のチームにはそういったファミリーや老夫婦はいないのですが、他のチームには何人かはいます。山を下りる途中、これから登ろうとする他のチームとすれ違いましたが、さすがにお年寄りにはきついようでした。

 ドライランディングのポイントまで戻るとボートが待っていました。ドライランディングとはいえ、岩場の波はけっこうはげしく、サムエルが船を引き寄せていてくれてはいますが、ちゃんとタイミングをはかって乗り込まないと大変なことになります。そうそう、ライフジャケットの着用も忘れてはなりません。チームの全員が無事ボートに乗り込むと、早速次のポイントへ向けて移動開始です。

 次のウェットランディングのポイントへ進む途中、岩壁に2羽のガラパゴスペンギンを見つけることができました。このペンギンは大人になっても50cmくらいにしかならない小型のペンギンだと昨夜のディナーの時にキャプテンが言っていました。また、キャプテンはガラパゴス諸島の動物の中でこのペンギンが一番好きだとも言っていました。なぜ、こんな赤道直下のガラパゴス諸島にペンギンがいるのかについては謎が多いらしいのですが、フンボルト寒流のおかげらしいです。とにかくかわいいという事実は疑いようがありません。船頭さんもわざわざボートのスピードをゆるめ、ペンギンに近づいてくれました。

 ウェットランディングした後はシュノーケリングを楽しみました。海水はやはり冷たかったのですが、山登りで火照ったカラダにはちょうどよく、サンサンと輝く太陽に照らされながら美しい海の中の魚達を見て回りました。妻はちょっと疲れたのかはたまた怖じ気づいたのか、砂浜でアシカを眺めながら休憩していました。私が砂浜に上がってくると、妻は小さなアシカが寄ってきて足に触れていったと言うのです。どうやらどんな動物でも子供は好奇心が旺盛なようです。

 GE2に帰るときのボートはチーム毎ではありません。帰る準備ができた人から待っているボートに乗り込み定員になるとそのボートは出発するのです。GE2へ帰ると、船内に入る前にホースから出る流水で足やサンダルについた砂を洗い流してくれます。船内に入ると、ちょっとした温かいツマミがあり、日本的に言えば「お10時」といったところでしょうか。なかなか気が利いていますね。

 私は部屋に荷物を置くと、船尾のプールデッキに行きプール横のジャグジー風呂に水着のまま入りました。もちろん露天です。最初のボートで帰ってきたせいか、まだ誰もいませんでした。ここにもバーカウンターがあり、ビールを注文すると持ってきてくれました。カナッペ等のツマミも用意されており食べ放題のようです。ガラパゴスの青い空、青い海、そして美しくも険しい島々に囲まれながら、1人ジャグジーに浸り、昼間っからビールを飲む。うーん、これはもうたまりませんね。鳥達が頭の上を飛んでいったりした日にはもう、ガラパゴスを満喫って感じです。そうこうしている間に1人2人とジャグジーに入ってくる人も増えました。ぎこちない英語で会話を交わしますが、やはり、アメリカから来ている人が多いようでした。

 今日のランチはこのプールデッキでのバイキングとなりました。妻を呼びに行き、日陰のテーブルを確保しました。でも、外人はとにかく太陽が好きなようで、好んで日向を選んでいました。早起きし、山登りやシュノーケリング等の運動をしたせいか、けっこうな量を食べることができましたが、ちょっと食べ過ぎのような気もします。デザートはとにかく甘過ぎで、日本人向けではありませんね。

 ランチが済むとシエスタタイムです。シエスタとは簡単に言えば昼寝をして体を休めようということです。つまり暑い日中の活動は避け、涼しくなってくる午後3時くらいから活動を再開するという暑い地域の生活の知恵ですね。郷に入っては郷に従えということで、我々もベットで横になることにしました。

 アナウンスに起こされるまで、2時間ほど寝ていたでしょうか。アナウンスは「午後のランディングだぞ!」というものでした。目をこすりながら準備をし、メインラウンジに集まります。シエスタタイムのうちにGE2は移動しており、午前中のバルトロメ島とは別のサンチヤゴ島へのウェットランディングです。このベットで寝てる間に移動していてくれるというのが、クルーズの良いところですね。

 サンチヤゴ島には人が住んでいるようでした。丘の上にある学校らしき施設の広場では子供達がサッカーをしていました。やはり南米といえばサッカーなんでしょうね。そんな光景を横目に見ながら草原を進んでいきます。そう、この島は緑が豊富です。うちわサボテンもたくさん生えています。ダーウィンじゃないですが、ガラパゴスの島は近くにあるのにそれぞれみんな違った印象です。ここでも木や草を差しながらサムエルが何やら言っています。動物のいるところで話して欲しいものですが、そんな私の気持ちは分かってもらえないようです。

 チームは進み、ランディングした砂浜とは別のサイドの海岸線に出ました。ここには海イグアナが海から上がってきていました。妻は大喜びです。あの何とも言えない顔が良いのだそうです。かく言う私も同類ですので、カメラはフル稼働です。ガラパゴスの動物はみなそうですが、普通の野生動物と違って人間が近づいても逃げません。これは超望遠のレンズ等を持っていない即席アマチュアカメラマンにとっては非常にありがたいことです。とは言っても近付きすぎれば、それなりのリアクションはあります。海イグアナの場合は体内の海水を鼻からピュッと水鉄砲のように噴射します。まぁ、飛んだとしてもせいぜい1m位ですから大して警戒することもないのですが、顔のアップを撮ろうとしてこれをやられると、カメラが心配です。海イグアナの頭が白いのは、この潮吹きの際の海水が自分の頭にもかかっていて、それが乾燥して残った塩が積み重なったものだと言われています。海イグアナはあのごつそうな顔には似合わない菜食主義者で、海中の海草や岩に付いた岩海苔を食べています。その動きも海中ではいざしらず、地上ではじっと動かずひなたぼっこばかりしています。動いたとしてものそのそ歩くだけで、人間に向かってくるということもありません。

 カナリヤのような小さくてきれいな黄色の鳥も見ることができました。その他には午前中にも見たペリカンやグンカン鳥もけっこういました。

 海岸線の端まで行くと、今度は内陸を通って戻ることになりました。この帰りの道ではトカゲ以外の動物は見ることができなくてちょっと残念でした。ランディングポイントに戻ると、フリータイムになったので、またシュノーケリングをしました。しかし、夕方になって海水もちょっと冷たくなってきていたので、すぐに砂浜に戻り、アシカを眺めながらボートの来るのを待つことにしました。

 GE2に戻るとまた何やらツマミが用意されていました。のども渇いていたのでピアノバーに行ってコークとオレンジジュースをお願いしました。トリイさんが言っていたように部屋の外ではいくら飲んでもただのようです。部屋に戻るとシエスタで使用したベッドもまたメイクもされています。この船は本当に至れり尽くせりの贅沢な船だなぁと感心しました。シャワーを浴びてデッキに出ると夕焼けに照らされた素晴らしい風景が広がっていました。このガラパゴスは時間によって色々な表情を見せてくれますが、夕焼けはまた格別ですね。

 今日のディナーは、妻と二人で気兼ねなく食べることができました。キャプテンの机にはまた別の2組の夫婦が招待されていました。こうやって見てから招待されればだいたいの雰囲気も分かろうっていうものですが、いきなり初日から招待されて昨日はとてもあたふたしてしまいました。

 妻は疲れたらしくブリーフィングには参加せずに先に部屋に行って寝てしまいました。このブリーフィングはけっこう重要で、明日のランディングはウェットなのかドライなのか、また、シュノーケリングはできるのか、その島ではどんな動物が見られる予定なのかといったことが説明されます。この説明はガイドが毎日交代でやるようなのですが、早口なのでよく分からないことが多いのです。そんな時、同じドルフィンチームのジョーやジョンに聞き直すと、親切に教えてくれました。彼らはカップルやファミリーが多いこのクルーズにあって、ボストンから男2人で来ていました。ブリーフィングが終わると、そのメインラウンジでピアノコンサートがありました。途中まで聞いていましたが、妻のことも気になったので部屋に戻ってみると妻はもう寝ていました。

 私はシエスタのおかげか大して眠くなかったので、デッキに出てみることにしました。予想通りというか予想以上というか、船の外には満点の星空が広がっていました。オリオン座も見つけられましたが構成されている星の数が違います。また、白っぽい帯のように広がっている天の川にも感動しました。明日は妻にも見せてあげたいなと思いながら部屋へ戻りました。



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